
住宅市場と工務店
データから見える意外な真実
・信頼のできる会社
・アメリカの挑戦
・住宅建設の担い手
ニュースの中で、空き家率が増えてきたとか、
ゼロエネルギー住宅が進められていることなど、
住宅市場の動向が伝えられています。
でも、自分の計画には関係のない
ことのように思ってしまいます。
ましても、家を建てたり購入することは、
人生の中でも何度もあることではありません。
国の住宅施策を司る国土交通省のデータの中には、
意外な事実もあります。
注意して探さなければ知ることもできないデータの中にも、
住宅市場を担う地域工務店の存在価値を知ることができます。
信頼できる会社
国土交通省が調査し、
公表している情報のひとつに、
『住宅市場動向調査報告書」(平成28年度版)があります。
全部で400ページを超える膨大な情報の中から、
まずはひとつの項目を、ピックアップしてみましょう。
その項目は、右の図表にある「住宅選択の理由」です。
建物や土地の評価、あるいはさまざまな条件も
理由に上がりますが、トップは49.2%で
「信頼できる住宅メーカーだったから」でした。
住宅を取得するのは、
大きな買い物であるだけに、
失敗は許されないと思います。
そうであれば、この調査内容は、
だれでも共感できるものだと思います。
ところで、この調査内容は「注文住宅」を
取得した世帯への調査結果です。
分譲住宅や中古住宅を選んだ理由となると、
「信頼できる住宅メーカー」であることは、
それほど高くはありません。
実際に現物を見ながら選び、
売買契約によって取得される不動産物件と、
請負工事契約によって
これからつくり上げる建築上の約束では、
選び方の理由が変わるのも当然のことです。
注文住宅では、なによりも信頼感が大事であるということです。
さらにこの調査の中では、施工者に対する
情報収集方法も調査しています。
51.2%の半数の人が、住宅展示場で情報を得ています。
住宅展示場に出展し、信頼感のある建設会社といえば、
大手の住宅メーカーを思い浮かべる人も
多いのではないかと思います。
大手メーカーの名前は、
テレビなどのコマーシャルでもよく耳にして知っています。
ところが、こうした全国規模で活動する大手住宅メーカーが、
欧米にはほとんどなく、
日本の住宅市場だけにあるものだと聞くと、
意外に思うかもしれません。
新築が建てられている数や、中古住宅の流通、
そして空き家率など、それ以外にも
日本の住宅市場には特別な点があります。
その中でも特別に、日本だけにある
大手住宅メーカーは、どれだけの役割を果たし、
本当の信頼を得ているのでしょうか。
じつはアメリカでも、一時期、
国家規模の住宅メーカーを
作ろうとする動きがありました。
成功していれば、日本の住宅市場だけが
特別なものにはなっていなかったのですが・・・
アメリカの挑戦
アメリカで国家規模の住宅メーカーを作ろうという活動は、
オペレーション・ブレークスルーと呼ばれ、
自動車産業がきっかけをつくったといわれています。
現代の日本が、働き方改革と称して、
国全体の生産性を上げようと
していることと同じように、
その頃、アメリカでも生産性向上は大きなテーマでした。
工場生産ですでに効率を上げている自動車産業が、
生産効率の悪い住宅産業に対して、
国を動かして取り組んだのです。
このプロジェクトは、1970年代のことです。
ちょうど日本にもプレハブ住宅が
生まれた頃の取り組みでした。
ところが、アメリカのオペレーション・ブレークスルーは頓挫します。
アメリカ政府は、
住宅建設はドメスティックな地域企業が推進するものであって、
国家的な住宅企業は必要ないと結論を下したのです。
プロジェクト全体の成否を考えるのは、
難しいことですが、ちょっと考えてみれば、
とても単純な理由が見えてきます。
大きな企業が取り組めば、大量に買いつけるか、
あるいは生産するので、材料費は安くなるはずです。
さらに工場生産を進め、施工が効率化されれば、
労務費も削減できるはずです。
つまり、国民には安くて質の高い住宅が、
供給されるはずです。
ところが、現場での生産性向上の方が勝り、
スケールメリットによるコスト低減の実現は、
住宅では難しくなります。
住宅の価格も明確で、
資産価値としての評価がはっきりしているアメリカでは、
結果的に消費者の信頼を勝ち取ることができなかったのです。
それは日本の大手住宅メーカーでも、
まったく同じ状況になっています。
住宅はさまざまな部材を使い、
現場で組み立てて完成します。
安く仕入れて、安く建てているはずの
大手メーカーの方が住宅の価格が高いのは、
資産価値として評価できない費用が
含まれているからに他なりません。
資産としての厳しい目を持つ消費者がいる
アメリカの住宅市場では成り立たないことも、
日本では通用しているということです。
それは信頼に対するニュアンスの違いと
いっても良いかもしれません。
資産が担保されることへの信頼と、
企業イメージというぼんやりとした
信頼感との違いです。
前ページの調査の中での企業への信頼感は、
後者の可能性も考えられます。
でもほんとうに、日本では大手メーカーが
信頼を獲得しているのでしょうか。
住宅建設の担い手
では実際に日本の住宅は、誰が建てているのでしょうか。
国土交通省のデータでは、
市区町村別に毎月の住宅着工数が公表されています。
しかし誰が建てているかまではわかりません。
2009年10月に住宅瑕疵担保履行法が施行され、
すべての住宅建設企業が保険
もしくは供託金を準備することになり、
年2回の基準日に届け出ることが義務付けられました。
これによって、全体像が見えるようになりました。
このデータから、日本で建てられている住宅戸数の、
40%はわずか30社ほどの大手メーカーが
建てているという記事が発表されたこともあります。
しかしこの記事には、戸建て注文住宅の他、
建売住宅や貸家、マンションまで含まれています。
後者になるほど、大手メーカーの比率が高いのですが、
注文住宅こそ信頼できる企業が大事であると重ねて確認してきました。
これらの瑕疵担保履行法の公表数値と、
住宅着工数から、現実の注文住宅市場の
シェアを推計することができます。
その平成25年度のデータが、
国土交通省の資料の中にありました。
その資料を読み解くと、
現実の住宅建設の担い手がわかってきます。
平成25年度の注文住宅市場は、32万3千戸でした。
この内、70%の22万4千戸が在来木造で建てられています。
大手メーカーが手がけるプレハブ住宅のシェアは、
年間6万1千戸で19%です。
これは1社のシェアではなく、
すべての大手メーカーを足したものです。
近年では大手メーカーも在来木造を手がけています。
また他にも2×4があり、
わずかながら重量鉄骨やコンクリートもあります。
このデータによれば、在来木造のうち
年間50戸以下の中小の工務店が建てている家が53.3%で、
戸数にすると約12万戸となり、
プレハブ住宅の倍以上の数です。
さらに299戸以下の工務店であれば80%にもなります。
また、年間受注戸数による区分を、
このデータ上では300戸以上供給している企業としてまとめています。
瑕疵担保履行法から推計しても、
全国で100社以上あり、1000戸以上供給している建設会社でも、
全国ではなく一部の地域に限られた供給です。
つまり、これらのデータから読み取り推計する限り、
注文住宅全体の7割以上が、
地元で活動する工務店によって
建てられているというのが事実なのです。
信頼の真意
もちろん、これは注文住宅におけるデータですから、
請負工事契約によってこれから建設するという、
もっとも信頼を大切にしているという
調査報告と一致するものです。
そして、この条件から、信頼とは何か
ということを伺い知ることができます。
少なくとも、大手メーカーだから
信頼できると考えているわけではなさそうです。
価格に優位性がなければ、
それは不信感につながります。
アメリカの国家的な住宅戦略が頓挫したことも
根源的には一緒のことです。
さらに住宅展示場から情報を得ている人が
多いという先のデータを考えると、
なおさら大手メーカーへの価格への不信感には、
根強いものがあると分析したくなります。
逆に限られた地域の中での信頼では、
企業よりも人の顔が見えていることの方が大切です。
ある調査で自分の健康を預ける
「かかりつけの医者」の条件が、
新間に発表されていました。
その結論は、次の通りでした。
1.近いこと
2.説明が丁寧であること
3.どんな相談もできること
4.腕が良いこと
なによりも、医師として腕が良いことは
4番目の要素になってます。
近くにいて、どんな相談もできて、
それでいて説明が上手ければ、
これ以上に信頼できる「かかりつけ医」はいません。
家も建てて終わりではなく、
近くにいて見守ってくれる
「かかりつけ医」のような存在が必要です。
似たように注文住宅を建てた多くの方々が、
「信頼できる住宅メーカー」として、
現実には地域の工務店を選んできたということが
データに現れていたのではないでしょうか。
アメリカのオペレーション・ブレークスルーの試みを断念した、
アメリカ政府は、理想とするホームビルダーのあり方を
ガイドブックの中にまとめました。
ホームビルダーは、地域社会の中で
人間的に信頼される存在になることと書かれています。
結果的には、日本もアメリカも住宅産業というのは、
地域で活動している工務店によって
支えられているということです。
国土交通省が発表しているデータを冷静に分析すると、
このような真実が見えてくるのです。