
工務店の役割
地域に必要とされる理由(わけ)
・お近くの工務店
・住宅市場と工務店
・棟梁という仕事
国土交通省が発表した2018年の新設住宅着工戸数の概要は、
総数で約94万戸、前年比2.3%減となりました。
こうした市場の中で住宅建設の担い手である
工務店とはどのような役割を持つ企業なのでしょうか。
🏢お近くの工務店
先日、知り合いの工務店に声をかけていただき、
家を建てて住まわれているご家庭を訪問しました。
もちろん、住み心地を含め、
満足して暮らされていることはいうまでもありません。
家というのは、建てた時よりも、
家族が住みこなしてこそ味わいが出て、
デザインが完成されるものです。
メーカーのカタログにはない住まい方の歴史を感じさせる雰囲気に、
あらためて感心しました。
建てられた時の経験を含めて、
ほんとうのお客様の声をお聞きすることができました。
その中での、ひと言です。
「うちは、工務店さんにお願いしましたが、
珍しいことではないのですか?」
テレビのコマーシャルを見れば、
いわゆる大手といわれる住宅メーカーの広告が流れ、
住宅展示場に行っても同様です。
多くの家は、このようなメーカーが建てていると思われているのです。
しかし、そんなことはありません。
ところで、この情報紙をお配りしている建設会社以外に、
お近くの工務店をどれだけご存知でしょうか。
目立つ広告などしていない工務店も多いので、
もしかしたらなかなか名前もあがらないかもしれません。
しかし、必ずお近くに工務店はあるはずです。
たとえば、建設業登録の中で土木を除く企業の数はおよそ25万社もあります。
日本全体にある小学校の数2万校で割れば、
ひとつの小学校あたりに12~3社の建設業者があることになります。
ただしこの中には、畳屋さんや左官などの下請け会社も含まれます。
この中で、実際にお客様と契約をして住宅を建てている会社の数は、
およそ2万5千社です。
ひとつの小学校あたり1社の割合で、
お近くに工務店が数社あっても不思議ではありません。
もちろん、この中に大手の住宅メーカーも含まれます。
もし大手のメーカーがほとんど建てていたのなら、
とっくに中小の工務店はなくなっていてもおかしくなのですが、
じつは、しっかりと住宅市場の中でも分業化されているのです。
その答えは、国土交通省が発表している
着工数のデータの中に垣間見ることができます。
住宅の区分は、大きく貸家・持家・分譲に分けられています。
この中で、分譲住宅はなかなか中小の工務店には手が出せない事業です。
実際に売れるまでは資金が回収できないので、
資本力のある大手がシェアのほとんどを占めます。
また賃貸住宅も、相続を始めとする税制などの説明や、
家賃保証システムを得意とする大手が占めています。
そして残る持家住宅の数は、総戸数の3割ほどですが、
じつは地域の工務店の多くが手掛けている住宅です。
これらの詳しい実情は、2009年に住宅瑕疵担保履行法が
施行されて出てきた統計で、
ようやく全容が見えるようになってきました。
すべての住宅建設企業が、瑕疵担保のために
保険もしくは供託金を準備することを、
年2回の基準日に届け出なければなりません。
これを詳しく分析すると、
持家住宅を実際に建設している担い手が誰なのかが、
わかってくるのです。
それはテレビコマーシャルで受ける印象とは、
まったく違う結果となります。
🏢住宅市場と工務店
国交省の着工数の統計を見る時に、
一番気をつけなければならないのは、戸数という単位です。
一戸建て住宅は文字通り1戸が1棟です。
一方、共同建て住宅は、1棟の中に数戸の住宅があります。
マンションの中には、100戸を超えるものがないわけではありません。
賃貸住宅も、戸建て賃貸もありますが、
多くはアパートのように共同建てになっています。
これらを前提として、住宅瑕疵担保履行法の
企業規模別の申請状況を見ると、少し概要が見えてきます。
過去のデータから、それぞれの規模の平均戸数から
推計して割り出してみました。
たとえば、年間2~3棟を建てている工務店が手掛けている住宅は、
マンションであるとは思えません。
もちろん、アパートなどの賃貸住宅である可能性もほとんどありません。
さらに、戸建て分譲住宅である可能性も相当低いと考えられます。
つまり年間10戸以下の工務店が建てている持家住宅とは、
そのほとんどが注文住宅であるということです。
同じように50戸以下の着工数がある工務店でも、
注文住宅の比率は高いはずです。
多少は手掛ける住宅規模は大きくなっても、
マンションだけを建設して50戸以下である可能性は
限りなく低いと考えられます。
一方、年間1万戸以上手掛けている会社では、
注文住宅の比率は圧倒的に少なくなります。
たとえば、コマーシャルでも見かける数万戸の企業は、
そのほとんどが建売住宅です。
同じように賃貸住宅やマンションのコマーシャル企業も、
注文住宅を手掛けることは、ほぼありません。
これらの状況から推計すると、注文住宅の半分以上は、
年間100戸以下の工務店が建てています。
そして、その規模の工務店であっても、
決して数県に及ぶ地域で活動しているわけではありません。
さらにたとえ年間500戸の実績を積んでいる企業であっても、
全国で展開している大手住宅メーカーではありえません。
これらを推計に入れると、注文住宅の8割近くは
地域の工務店が建てているのです。
現実に、鉄骨造やパネルなどでつくるプレハブ住宅のシェアは
ここ10年間で減少しつつあります。
このシェアもアパートなどで多く、戸建て住宅では
さらに低いものと考えられます。
そして、この状況を打破するために、
大手住宅メーカーも木造住宅を取り入れ、
工務店と同じ工場で生産しているのが現状です。
確かにコマーシャルはイメージをつくり上げるものですが、
国のデータと数字という現実は、嘘をつきません。
🏢工務店の役割
こうした現実の裏には、
住宅の市場原理だけではない要素が隠されていると思われます。
その要素を実感するのには、
限られた地域に工務店が無くなった世界を想像してみれば
イメージできるかも知れません。
大事な資産である家は、
それなりにメンテナンスを重ねていかないと
維持できるものではありません。
専門家である工務店が地域に無くなれば、
家を維持してゆくこともままなりません。
それは、医者のいない場所に住むのと一緒です。
子どもの教育や医療が、
地域を維持するためのインフラであるのと同じように、
住宅を維持する人はインフラの1つなのです。
それを痛切に感させるのは、
地震や強風、洪水などの自然災害が起きた後です。
被災地で真っ先に復旧と復興の活動をし始める人の1人が、
工務店に他なりません。
時には、同じように被災した身でありながら、
自分の家よりも優先させて、
地域の被災者の家を回っている姿がニュースでも映し出されています。
単純なことのようですが、
組織の中で利益を最優先に求められる企業の中では、
なかなかできないことです。
また、本部が遠く大都市に置かれている企業でも、
なかなかできないことです。
それに加えて、前章のシェアを見ても
圧倒的に木造住宅が建っていることは間違いありません。
大手住宅メーカーが生まれる前から、
建っている建物もあるのですからなおさらです。
一部のプレハブ住宅を除けば、
工務店にできない仕事はありません。
そして地域にはさまざまな職人も居住しています。
こうした職人を束ね活動を指揮する役柄がいないことには、
復旧や復興活動は円滑に進みません。
お客様との直接の契約を交わすことができる、
地域の工務店がこの役割を担っているのです。
それは昔からの棟梁の役割であり、
地域の頭領として尊敬されている存在でもありました。
大統領という日本語訳も、
この地域を守る統領の大親分として名付けられたとも聞きます。
地震だけではなく、強風を伴う台風や、
ゲリラ的に集中する豪雨など、
どの地域に自然災害が起きるのかわかりません。
工務店が無くても良い地域は考えられないのです。
🏢工務店はなくならない
家が大切な資産であることは、
家族にとってもそして自治体や国にとっても変わりません。
それは家を建て、家を維持する仕事が永遠に
なくならないということを意味しています。
新築住宅の着工数が次第に少なくなり、
住宅市場が縮小することを懸念する話がないわけではありません。
でも、それは世界中のどの国も事情は変わらないはずです。
どの国でも、同じように地域のビルダーがインフラ産業として、
新築だけでは無く既存住宅の維持を含め、
住宅需要を支えています。
その状況を知るのに、世界の国々で国民がどれだけ
住宅投資を行っているかを調べてみました。
国民総生産(GDP)に対する、
住宅投資額は決して日本が多いわけでもありません。
さらに、一般家庭から法人や政府までを含めて、
国の資産形成のため、建物や機械設備、
さらに船舶や車両などの耐久財の購入を表す、
国内総固定資本形成に対する、住宅への投資額を見ても、
他の国々が、いかに住宅を大切な資産形成の対象として
見ているかがわかります。
改めて、この情報誌をお届けしている会社を始めとして、
お近くの工務店に注目してみてください。
すでに、その工務店にお世話になっている人はもちろん、
今は家を建てるとかリフォームを考えていなくても、
いつかは縁ができる工務店になるのかもしれません。
そしていざという時にも、身近で頼りになる存在になるかもしれません。