気候をデザインする

気候をデザインする

微気候にある先人の知恵

 

・気候の区分
・町家と打ち水と土間
・樹木のつくる気候

 

世界的な気候変動がニュースになっています。

台風が大型化し、最高気温が更新され、

雨の降り方も変わってきたように思えます。

家の暮らしやすさは気候ともかかわりが深いものです。

そんな気候をデザインする家とは、どんな家でしょうか。

 

☁温暖化と気候

 

地球の二酸化炭素量が増えると温暖化が進むといわれています。

地球の気温が数度上がっただけで、

大きな気候の変動が起き始めています。

世界でいちばん大きな島であるデンマーク領のグリーンランドは、

大部分が北極圏にあり80%が雪と氷に覆われた土地です。

 

それほど過酷な地域であるだけに、

日本の国土の5.7倍もありながら、

6万人弱の人しか住んでいません。

しかし、温暖化によって有効活用ができると思えば、

某国の大統領は買いたいとツイートしています。

これだけの面積の地域が、大きく変動するくらいですから、

気候変動はとても大きな問題です。

 

現実に、日本に上陸する台風の数は増え、

猛威も増していると思います。

線状降水帯による雨の降り方も尋常ではなく、

毎年のように最高気温も更新されているように感じます。

もちろん地球の長い歴史の中では、氷河期もあって、

これ以上に大きな気候変動があったことは分かっています。

 

しかし、今、私たちが迎えている気候変動は、

私たちが引き起こしていることであるといわれています。

少しずつ文明が成長しながら、

何気なく暮らしているつもりでも、

その生活が積み重なって地球の気候が変わってしまうというのです。

 

それだけではなく、東京オリンピックを控えて、

猛暑を克服するために、屋根のないカヌー会場では

人工雪を降らせて冷却しようという試みも

現実的に実施されようとしています。

その一方、台風の進路の予測はできても、

そのコースを変えることはできません。

 

もちろん干ばつを解消する雨を降らせることも、

集中豪雨を緩和することも人の技術では、

未だ実現されていません。

それほど気候は簡単なものではありません。

 

☁気候の区分

 

ところで、普段から使っている天気や天候、

気象や気候という言葉はどのような違いがあるのでしょうか。

天気は数時間から数日の、晴れ・曇り・雨などの気象状態で、

それよりも長い期間を天候と呼びます。

英語では、同じ「weather」です。

 

すでに説明の中でも気象という言葉を使っていますが、

気象は気温・湿度・風速や降雨量などの

物理的な事象を学術的に表記する時に使います。

「気象学」や「気象衛星」をはじめ、「気象庁」も同様です。

そして気候は、天気・天候よりもさらに長い期間を対象に使い、

英語では「climate」です。

 

グリーンランドと日本では、まったく違う気候の国となります。

同じ日本の中でも、太平洋気候と日本海気候のようにいわれて、

地域による気候の差があり、さらに海の沿岸部や高原、

盆地などの気候もあります。

気候は大きく大気の捉え方によって分けられます。

 

大気の上層部では、日本は偏西風の吹く緯度にあり、

四季の豊かなひとつの気候に属しています。

しかし、中層部では季節によって風向きは変わり、

太平洋と日本海では、夏と冬の気候は大きく異なります。

 

さらに地形などによって影響を受けやすい低層部の空気の動きでは、

地域ごとに気候の差があって、そのおかげで特産品も変わるという、

大気候・中気候・小気候があるのです。

そしてさらに、地上1.5mほどの高さの気候を、微気候といいます。

この微気候は、家にも大きく関わる気候です。

 

☁微気候

 

大気候は偏西風の他にも、四方を海で囲まれていることや、

その海に大きな潮流があることなども、

日本の気候を生み出すことに影響しています。

厳しい氷河期を迎えても、暖かい海流のおかげで

色とりどりの紅葉や黄葉の樹種が残され、

世界でも珍しい絶景の秋をつくり上げました。

 

そして、北海道・東海道・南海道・瀬戸内というような、

日本列島の形状に関わる中気候の中に、

「おろし」「だし」「やませ」などの風の名を呼ぶような

地域独特の地形にも関わる小気候の区分があります。

でも、これらの大中小の気候は、

なかなか人間の力で変えることのできない気候です。

 

そうはいいながら二酸化炭素の排出によって、

気候変動が問題になっていますが、

少なくとも人間が良いようにコントロールすることはできません。

さらに小さな気候として、都市気候という言葉も

使われるようになってきました。

 

都市開発が進むことにより、雨は土に浸透せず、

風もビルに当たれば流れを変えて、ビル風という現象を起こします。

それでも、なかなか気侯は人の思う通りにはいかないものです。

そしてさらに局地的な、地上1.5mの高さにある微気候は、

いわば普通の家の周りの気候です。

 

ここではある程度、人の思うままに

コントロールすることができるようになります。

そして、昔の人の知恵では、上手に微気候が活かされていました。

 

🏡町家の中庭

 

たとえば、町家には中庭があります。

有名な話ですが、昔は家の間口の広さで税金が定められていたので、

間口を狭くして奥行きの長い家が建てられました。

それは京都だけではなく、日本中に残されている都(みやこ)、

つまり都市部の家のつくりです。

 

そのかわり隣家との境は壁一枚で隔てられていて、つながっています。

しかも、道路に面した場所には店(たな)があって、

奥とは仕切られていることも普通です。

このような都の家では、その地域の季節風が吹いても、

風は屋根の上を通り過ぎるだけで、

座敷の中を抜けることは少なくなります。

 

冬であればまだ良いのですが、夏には過ごしにくい家になってしまいます。

そこで、中庭を造って風が抜けるための工夫をします。

片方の中庭には樹を植えて日陰をつくり、

もう一つの庭には枯山水のように樹木のない庭とします。

 

夏の日射により、枯山水の庭は空気が温められ上昇気流が発生し、

逆に日陰の庭には冷やされて下降気流が発生します。

この2つの気流の間に座敷があると、

自然と空気の流れである風が発生し、

涼しさを感じることができるのです。

 

空気の動きの考え方は、気象学とまったく同じもので、

いわば微気候風とでも呼べるものです。

似たようなことは、町家のようなつくりでなくても考えることができます。

多くの地域では、夏には南からの風が吹くので、

建物は南面に風圧を受けますが、

逆に北側にはマイナスの風圧が発生します。

 

そこで、屋根面に近い上部で、北側に窓をつけると、

南風の力で家の中の空気を吸い出す効果が表れます。

この時に、北側の地面に近い所は、影になっているので、

低い地窓のような窓から温度の低い空気を吸い込むようにします。

このような自然の力を利用して送風機などの力を使わない家を、

パッシブハウスといいます。

 

🏡打ち水と土間

 

暑い夏にも、ひとたび夕立が降れば涼しさを感じます。

ただ、昨今は適度に潤すのではなく、

ゲリラ豪雨となるので心配も増えました。

こうした雨による涼しさの基本には、気化熱があります。

 

気化熱は、ここでは液体である水が、

水蒸気という気体になるときに、

周りから吸収する熱量です。

人は暑くなると汗をかいて、

その汗が気化する時に熱が奪われることで体温を下げようとします。

 

この気化熱の原理は、さまざまなところで使われていて、

ヒートポンプを使った冷蔵庫やエアコンが冷えるのも、

同じ理論を使ったものです。

これを最も単純に利用する方法は、打ち水です。

東京オリンピックで予定されている、マラソンでのミストシャワーも、

この打ち水の効果を狙っています。

 

濡れると感触が悪いので、霧状に水の粒を細かくして

濡れない工夫が凝らされています。

同じように家の中庭でも、日陰をつくる樹木の下に水打ちをすると、

気化熱が奪われて温度が下がり、

さらに微気候風をつくる効果が期待できます。

 

京都の町家の中には、中庭に井戸がつくられているケースも少なくありません。

また、打ち水をするためには、

座敷ではなく土間が必要になります。

日本の昔の家の多くには、土間がありました。

 

この土間も微気候を住宅にデザインするための大事なアイテムのひとつです。

逆に、現代の高断熱・高気密住宅では、冬に室温を上げることにより、

過度の乾燥に悩まされることがあります。

 

このような時には、加湿器をかけて湿度を上げることで

体感温度を暖かくする効果があります。

十分に断熱をして熱量を保持できれば、

土間に水を打って湿度を上げることも土間の使い方のひとつになります。

 

🌳樹木のつくる気候

 

家の周囲の庭でも、微気候をデザインすることはできます。

庭木を植えて、夏には葉が茂って日陰をつくり、

さらにタイルやコンクリートのかわりに芝生などの植物で覆えば、

間違いなく地上1.5mの気温は低くなります。

 

そして冬には、葉が落ちて日差しが届くようになると、

太陽の熱エネルギーを家の中に吸収して部屋は暖かくなります。

このような微気候デザインを利用すれば、

まるで夏と冬にそれぞれ違う性能を発揮する家を

手に入れているようなものです。

 

南面の植樹ばかりが取り上げられることが多いのですが、

過ごしやすい家には、じつは東西面の日照を遮蔽することが大事です。

窓をつくらなければ問題はないのですが、

風通しを考えるとないわけにもいきません。

東西面にこそ、風が抜けて日照を遮蔽する樹木を植えることです。

 

また、さらに、土地に余裕があれば北側も例外ではありません。

日本古来の民家では、防風林を兼ねた植樹がなされてきました。

厳しい冬の北風を少しでもやわらげるように、

高い針葉樹などを植えて家を守ります。

このような植林も、古来の知恵で微気候をデザインしてきたものです。

 

現代の家では、敷地も限られてできることも少なくなりましたが、

敷地の周辺を見回して、

地上1.5mの気候を意識しながら

家をデザインしてみてはいかがでしょうか。

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