レジリエンスと住宅

レジリエンスと住宅

住宅で迎える災厄を考える。レジリエンスと住宅

・住宅とレジリエンスの心
・クレーム産業
・災害への準備

活断層、マグニチュード、津波、線状降水帯、竜巻、最大瞬間風速、それに加えてインフラ劣化など、大きな災害につながるキーワードを聞かない年はありません。安心して暮らすためには、災害に備える必要があります。

そのためには丈夫な家にしておくだけでは足りないことも多くあります。災害時などに発揮されるレジリエンスを考えておきませんか。

🌤レジリエンスの心、、、

「レジリエンス」という言葉が聞かれるようになってきました。たとえば、国のインフラを災害に強くするために進められている国土強靭化は、「ナショナル・レジリエンス」といいます。

もともとは心理学の用語であったこの言葉は、外的なストレスに対応するための適応力を指し、「折れない心」ともいわれる用語です。大きな災害にあっても、負けずに立ち上がる気力を維持し、現実に復興するためには強い心が必要です。

「回復力」や「弾力性」とも訳され、不利な状況に追い込まれたことへの、柔軟で強靭な適応力になります。それは災害時などの不利な状況になって必要とされるものですが、そのような状況は常にあることではありません。そして、あらかじめ準備をすることが大事です。

国土強靭化はまさに、災害に対する準備そのものです。近年になって、自然災害が多くなってきたという印象を持っている人も少なくないと思います。こうした災害には、人だけではなく多くの家も被災してきました。もっとも象徴的なのは、地震です。

100年前の関東大震災を例にあげなくても、数々の地震がその後に各地で起きています。その間に、地震の科学的なデータも集められ、建物の耐震基準も数段厳しくなっています。熊本地震では震度7の地震が連日で発生し、これまでの余震への警戒という告知に加え、前震と本震という概念まで生まれました。

耐震も1度の地震に対する強度だけではなく、数度にわたる強い地震にも対処できる強度が求められようとしています。東日本大震災では、地震以上に津波による災害が起きました。たとえ地震に耐えても、大きな水の塊が押し寄せたら、家はひとたまりもありません。

あったはずの街並みが、一晩で大きな更地になっている姿は、あまりにもショックです。水の脅威は、地震だけとは限りません。地球規模の気候変動が大雨を降らせ、毎年のように洪水のニュースが流れています。

統計で裏づけされた表現なのでしょうが、「50年に1度の大雨」という言葉を、年に数度聞いている気がします。温帯や亜寒帯の日本が、まるで熱帯の雨が降るような気候になっているかと感じられます。家が流さるような事態となれば、災害死亡者の発生も免れません。

しかし、たとえ流された家がなく最悪の事態を避けられても、家は水に浸かると大きな被害を受けます。家財はもちろんのこと、建物本体への被害は甚大です。繊維質の断熱材が水を含めば使い物にならず、乾かすのも簡単ではありません。壁を壊して入れ直す必要があります。

肝心の構造体を乾かすのにも、相応の期間が要ります。被災者はその期間に、避難生活を強いられます。レジリエンスの心がなければ、乗り越えられない状況に追い込まれているのです。

☔さらなる災害が、、、

2019年の台風15号により、風が脅威であることも思い知らされました。前年の台風21号でも、強風によってタンカーが流され関西空港の橋梁が壊れる災害も発生しました。風といえば竜巻が筆頭にあげられますが、被害地域は竜巻の進路に沿って比較的限られています。

しかし、台風15号の風被害は、千葉県を中心として広範囲に及び、長い期間の停電に悩まされた人は多数です。構造計算を知っていると、じつは地震以上に風に対する強度で決まっている家が少なくありません。地震という振動による力よりも、一方的に押される風の方が力が大きくなるのです。

特に重量が軽い木造で、階数が増え細長い建物になると、多くは耐震性よりも耐風性で決まります。水の災厄では、家は足元から被災しますが、風の災厄では家は屋根から被災し、同時に雨によって被害を大きくします。たとえ死亡被害者は少なくても、家には大きな爪痕が残ります。

逆に、さらに大きな死亡被害者が発生する災害は熱です。大震災を除く自然災害による死亡者数の、5倍以上が熱中症で亡くなっています。猛暑もすでに災害の一つになりつつあります。家への被害はありませんが、室内での熱中症被災も多く、冷房機の設置や、積極的な使用が勧められています。

そしてさらに多くの死亡者を数えるのが、日常災害です。家庭内における不慮の事故による死亡者数は、交通事故による死亡者数をはるかに超え、毎年、大震災に匹敵するほどの数です。

熱中症を含め、家の中で起きている災害は、2011年では「交通事故が6,741人に対し家庭内災害は14,312人」、2017年では「交通事故が5,004人に対し家庭内災害は15,013人」と、これほど多くの人が亡くなっているのです。

この場合、家は被災するどころか、原因を作り出している可能性もあり、問題になりかねません。

⛈3度建てなければ、、、

こうした災害も、自分自身が当事者となって体験することは、それほど多くはありません。だからこそ、レジリエンスな心を養い準備をしておく必要があります。じつは災害対策と同じように、家をつくることも何度も経験できることではありません。

そして、建ててみて、住んでみてから気づくようなこともたくさんあります。だからこそ、家は3度建ててみなければわからないといわれるのです。マンションや団地のように、まったく同じ間取りの家に暮らしていても、家族それぞれに使い勝手は変わります。

使いやすさの感覚が違っていることも当然のことです。その上、住まい手が望んでいることをすべて的確に語ることも難しく、設計者もその意図のすべてを受け止めることも不可能に近いものです。

家は3度建ててみなければわからないといわれるのと同じように、設計者も50歳を過ぎるまで経験しないと一人前にならないといわれます。昔は、経験豊富な棟梁に任せっきりで家はできましたが、今では住まい手が注文して家を作り上げます。

単純なように見えて、非常に複雑なコミュニケーションを必要とする、注文住宅の建築方法は、結果的にいくつかの不満点を抱える工事となることも決して少なくありません。災害ではありませんが、こんなストレスにも、レジリエンスは必要です。

☁クレーム産業、、、

店頭に並ぶ商品を買ってくるのであれば、問題が起きることは少ないのですが、注文住宅は請負工事契約という図面や書類で表示した家を建てる契約です。ですから大なり小なりの希望と設計のかけ違いも起こりがちで、住宅産業がクレーム産業といわれるゆえんのひとつになっています。

しかし、クレーム産業と呼ばれると、クレームになるような信頼のない企業ばかりがあるように感じてしまいます。しかし、それは大きな誤解です。こうしたクレーム産業のイメージを払拭するのに、大手メーカーがあるように感じるのも誤った認識になります。

それというのも、家を建てている建築会社というのは、限られた地域の中で活動している会社ばかりです。たとえ全世界に向けて情報が発信できる時代になったとしても、遠い他県や他国に出かけて家を建てることも、修繕することも不合理です。ここでも、配送すれば取引ができる売買契約による他の製品との大きな違いがあります。

それは、たとえ経営の世代が代わっても、同じ地域の中で仕事を続けていかなければ達成できません。もし、その地域の中で悪評が立ち、信頼を得られないことになれば、それだけで企業の経営を続けることは困難です。

最近の台風被害による屋根の破損でも、規格に合わない安物のブルーシートを簡単にテープで止めただけで、法外の費用を請求するようなリフォームや建築業的な詐欺事件が発生しています。困って判断がつかない状況になっているのを見越して、他所から来た悪者が起こしている事件です。

もし、地元の建築会社がこのような所業を働けば、その地にいられなくなるのは明白です。そのように考えると、クレームだらけの建築会社が、地域の中で仕事を続けられるわけもありません。

現実に、日本にはそれぞれの地域に、100年を超える歴史を持つ建築会社がたくさん残っています。その中の一社は、ギネスブックの世界一古い企業として認定されています。限られたひとつの地域を守りながら、千年を超えて存続してきたのです。クレーム産業のはずもありません。

逆に、クレーム産業という言葉そのものも、大手住宅メーカーが生まれた頃から、いわれ始めたことです。そもそも住宅本体への不具合だけが対象ではありません。大手住宅メーカーによる、サービス業としての住宅産業が生まれることによって、サービスに対するクレームが増大したということと考える方が自然なのではないでしょうか。

🌩地域のレジリエンス

それどころか、災害があると真っ先に活動を始めるのも、地域の建築会社ではないでしょうか。屋根が飛び、床が水に浸り、地震で柱が歪めば、相談する相手は、近くの建築会社がいちばん頼りになります。

災害があれば、重機を動かすことができ、屋根に登り、床板を剥がすのも、建築会社を中心とした人材がいないことには始まりません。地域の警察や消防団とともに、あるいは、まさにその団員にもなっていて、真っ先に救命・救助・危険回避・復旧の活動を始めます。

もちろんカは限られていますが、自衛隊よりも先に動き始めているはずです。同じ地域に住んでいれば、間違いなく自分も被災者の一人になっている身でありながら、困っている人たちを助けようとして活動を始めているのです。

遠い都会に本部があって、その指示を待ち、予算措置を危惧してから動き出す会社とは大きく違います。こうした活動こそ、まさにレジリエンスと呼ぶのにふさわしい行動です。

こうした災害時の行動を事前に考えると、少なくとも警察や消防と同等に、地域の建築会社との接点を持っておくことが、住まい手としてのレジリエンス対応といえます。

もちろん、家を建ててくれた建築会社であることがいちばんです。あらためて、地域の建築会社が大事なインフラを支えてくれていることを感じていただければと思います。