おうちの話

日本の美しい町並おうちのはなし108

住まい文化、守ること、学ぶこと日本の美しい町並

・伝統の国、伝統の町
・歴史という仕上げ
・地域の財産

昭和50年(1975年)に、国は日本各地の自然環境に調和した、歴史的な町並を保存するための法令を定めました。重要伝統的建造物群保存地区です。

平成27年現在で、全国112地区に日本の美しい町並が残されています。もちろん住居が、その中の大切な要素であることは間違いありません。あなたの町の近くにも、きっとあるはずです。住まいづくりに見て、知って、学べることも、たくさんあるのではないでしょうか。

🍁重伝建🍂伝統の町

それにしても国が定めることは、とても重々しい名前になるものです。国選定重要伝統的建造物群保存地区は、文科省でも省略されて重伝建と呼ばれています。その保存地区とは、城下町、宿場町、門前町、寺内町、港町、農村、漁村など、歴史的な景観を備えている環境そのものを、保存しようとしているものです。

法隆寺や姫路城などの世界遺産になっているような独立した建築物を評価しているのではなく、群として建物が連なり町並としての景観が評価されています。当然のように、その中には民家があり、蔵や社寺なども含まれます。そればかりか、土塀や石垣、水路、石塔、石仏、灯籠などの工作物や、庭園や生垣、樹木、さらには墓などの周囲の環境も含まれます。

そして、これらの景観には、その町並ができあがるまでの物語があり、/長い歴史が刻まれています。今では過疎が進む山深い集落にも、多くの人が立ち寄り足を休める貴重な宿場町として栄えた時期がありました。豪雪と長い冬に耐えながらたくましく生き抜く農民が、その風土の中で築き上げた風景があります。

交易の花を咲かせて栄えた豪商が造り上げた町。土塀に囲まれた武家屋敷街。その町並の中には、まさに日本の民族文化がしっかりと残されています。そして重伝建で選定された伝統的な町並には、さらにもっとも大切な共通点があります。

それは、地区に生まれ生活してきた人たちが、大切なものだと気づき、残そうと決意をしてきたことです。日本には数え切れないほどの伝統的な町並があったはずです。しかし新しい文明の便利さや価値観の変化に伴い、失われてしまいました。残そうという決意がなければ、重伝建はなかったはずです。

その決意の奥には、美しさを感じたからに他なりません。そして今でも、その町並を守りながら住んでいる人たちがいます。日本各地に選定された重伝建は、誰でもが訪れることができます。こうした町並を見て、あらためて日本の家の美しさを学んでおきたいものです。

🍁歴史という仕上げ

古い歴史の中で、日本は何度も文化の国として世界に紹介されてきました。15世紀の大航海時代、明治維新後の文明開花の時代もそうです。遠い国である日本を訪れた西洋人は、日本の風土風習を高く評価して、母国に報告しています。

大航海時代には、遠く欧州から未開の大陸アフリカを回り、インドやアジア、中国に寄港しながら、日本にたどり着きました。日本の住まい文化を見て、質素でありながら清潔に暮らしていることに、高い文化性を感じても不思議ではありません。維新後の明治の時代にも、何人もの建築家が日本の暮らしや住まいを見て、写真に残し、高く評価しています。

アメリカ軍が町としての伝統的な価値を考えて、京都を空爆しなかったのも有名な話しです。そして日本人も伝統を大切にしながら長く暮らしてきたことに間違いはありません。日本人は新しいもの好きだといわれることが、本当だと信じることはできません。

これらを考えると、日本は住まい文化を誇れる国であるはずです。もしかしたら、私たちは、大切なものを失いかけているのかもしれません。たとえば、重伝建には腕の高い職人が組んだ建具が残されています。もちろん選りすぐった材を使い、鍛え抜かれた腕をふるって造作されたもので、今では手に入らないほど価値のあるものです。

それに比べれば、アルミサッシは、比較的安い材料を使い、大量生産で作ることができます。その上、気密性能も高まり、過ごしやすい環境を作り出してくれます。安くて性能が良いのは、何よりも嬉しいことですが、職人が造作した建具のように、価値を増すということはありません。

経年によって木材の色は飴色になり、煙が染み込み磨かれることで光沢を増します。歴史という仕上げ材は、テクノロジーではかないません。それが文明の価値と、文化の価値の違いなのでしょう。

🍁地域の財産

こうした重伝建を残す努力が重ねられていることは、住んで所有している人たちだけの財産ではなく、地域の財産になります。さらには日本の財産でもあります。重伝建を財産として守り続けるために忘れていけないのは、建造時だけではなく、今でも多くの職人が必要とされているということです。

農村・漁村・商家・武家屋敷・寺内町であれ、地域の建設会社がいなくては維持できないことです。住まいというのは、どこの国であっても、こうした地域の建設会社によって支えられています。郵便が届かないとか、医療が受けられない、あるいは小学校に通うことができない地域は存続が難しいように、住まいの維持管理や新築ができない地域も寂れるのを待つだけになってしまいます。

じつは地域の建設会社は、地域を守るための大切なインフラ産業なのです。利益が出れば進出し、見込めなければ撤退する大企業の経営には、任せられるものではありません。だからこそ今でも、地域に根ざした建設会社は続いています。地域の財産として残してゆきたい重伝建の裏には、職人とともに皆さんの近くにある建設会社があることを忘れないで欲しいものです。

そんな思いを感じながら、もし、近くに重伝建があったら、日本の誇る住まい文化を見直しに出かけてみてはいかがでしょうか。さらに日本各地の重伝建を、訪ねてみるのも良いと思います。もしくは自分で出かけなくても、エ学院大学建築学部同窓会の伝統建築物群アーカイブ実行委員会が、すでに24箇所の重伝建を取材してアーカイブとして残しています。

いずれ全15巻のDVDとして集大成する予定です。温故知新、古いものの中にも、多くの新しい発想へのヒントがあります。新築にもリフォームにも、こうしたアーカイブを生かしてもらえればと思います。

▲ ページトップ