おうちの話

ガーデンセラピーおうちのはなし110

健康になる家と庭ガーデンセラピー

・ラベンダーの効用
・五感を活かすセラピー
・はじめの一脚

できる限り健康で長生きしたい。それは万人の願いです。そのためには病気になってから対処するのではなく、日常の生活の中で養生するのに越したことはありません。セラピーといえば療法ですが、予防医学の観点に立って家と庭に囲まれた理想の暮らしを、思い描いてみませんか。

🌿ラベンダーの効用

良い眠りを誘ってくれる植物として、ラベンダーはとても有名です。匂いの成分の中に、鎮静効果があるといわれ、アロマテラピーなどでもよく使われています。さまざまな薬の中でも、漢方薬によく使われている生薬は、天然の植物が原料になっています。

そして製薬のための植物ハンターがいるほど、いろいろな効能のある植物が世の中にはたくさんあります。ラベンダーはその代表例で、とても身近な植物でもあります。このラベンダーが、現実に私たちの身体に効能を発揮しているという実験もあります。

鎮静効果や睡眠誘導ではなく、血圧を調整してくれるというのです。その実証実験は、千葉大学園芸学部岩崎寛先生の「緑の療法的効果」に関する研究で行われました。室内環境からラベンダー畑に移動した時の、血圧・脈拍・唾液アミラーゼ濃度の変化を測ったものです。

高血圧の人達の血圧は、ラベンダーの匂いを嗅ぐと平均的に10~30mmHgも下がりました。確かにラベンダーの香りは、血圧を下げる効果があるのです。ところがこの実験に参加したのは高血圧だけの人ではありませんでした。じつは低血圧の人もデータも残されています。

そしてその結果は、高血圧ほど顕著ではありませんが、なんと血圧が上がったのです。つまり、血圧が高い人は下げ、低い人は上げてくれる効能があるのです。もちろん通常の人が嗅いでも害はなく、対処療法で血圧を上げたり下げたりする薬とも違います。

ではそのラベンダーという植物は育てにくいものなのでしょうか。寒さと乾燥には比較的強いので北海道富良野のラベンダー畑が有名ですが、地中海沿岸が原産地で日本には九州まで多くのラベンダー園があります。そもそもシソ科のハーブで、ハーブはいわば雑草のように強く育てやすい植物です。

ラベンダー園に行かなくても、自分の家の庭でも、十分に育てることができます。このラベンダーを庭に植えるだけでも、五感を通じて心身ともに癒され、健康につながります。いうまでもなく、五感とは嗅覚・触覚・味覚・視覚・聴覚です。ラベンダーの香りが血圧に影響を及ぼすのは先に触れました。

この花を育てるためには、手で土をいじり、茎や葉に触れて面倒をみ、収穫して乾燥しハーブティーとして味を楽しみます。もちろんラベンダーカラーは初夏の風物として眼を癒します。その花にはハチも好んで寄ってきてハチミツを収穫します。その羽音こそが人の関与しない自然の営みそのものです。

五感を通じて、心と身体が健康になってゆく風景が見えてきます。こうした植物の効用は、ラベンダーに限られたものではありません。たとえば、昔の日本の庭には、キンカンの木があったものです。柑橘系の植物は、葉の根元部分に二重の葉がついているので見分けやすいと、年寄りから教わりました。キンカンの実がなれば、のどの薬として砂糖漬けにされて常備していたものです。

🌿健康への風景

柑橘類はキンカン以外にも、たくさんの種類があります。ミカンはもちろん、レモン、ライム、そして山椒もミカンの一種です。小さな実ですが、確かによく見るとミカンに似ています。日本語の色の名称ともなっている橙(ダイダイ)は、その実の色の変化から、家族が代々続くことを願った縁起木として好んで庭に植えられていました。

もちろん柑橘類は、見て癒されるだけではありません。抗酸化作用が高いとエビデンスが出始めているシークワーサーは、沖縄を代表する柑橘類です。エキスとして出回るようになりました。でもじつは、一般的な家庭の庭でも育てることができる樹木です。しっかり面倒をみれば、収穫を楽しみながら、さらに健康への効能が得られます。こうした柑橘系の樹はアゲハ蝶の幼虫の好物で、どこからか見つけてやって来ます。

共存するか駆除するか、それはそれぞれの自然との向き合い方です。こうした果実との共存をイメージすると、ガーデンセラピーという健康への風景が見えてくると思います。そしてこの風景の中には、とても大事なポイントがあります。それは病気という、いわば非常への対処ではなく、健康な時の生活という日常の中に、療法があるということです。

🌿五感を活かすセラピー

日常の中では、私たちはさまざまな刺激を五感で受けて生活しています。当然のようにその刺激に左右されて健康状態が変わります。五感は健康と直結しているのです。一般的には五感というと、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚といわれます。この順序は、取得する情報量の多さで、視覚は80%以上とされています。

私たちは視覚に頼って生活しています。しかし、脳の仕組みや感覚野の位置などが次第に分かってくると情報量だけでは判断できません。健康に影響を及ぼしている五感では、嗅覚・触覚・味覚・聴覚・視覚と考えた方が良さそうです。

嗅覚について分かってきたのは、じつはとても最近のことです。2008年のノーベル医学賞が、嗅覚の仕組みを明らかにしたことでした。嗅覚の中枢は側頭葉にあって、じつは記憶の中枢の近くにあります。

ですから、匂いを嗅いだ時に昔の記憶がフラッシュバックのように思い起こされることがあります。食べられるものか、それとも昔食べて体調を崩したものか、動物にとっては嗅覚は命を守る最先端のセンサーです。そして、感情の起伏にも影響するのが嗅覚です。

花の香り、木々の香り、土の香りで、心身に大きな影響を受けているのです。また匂いは食文、化にも根付いています。ワインの味を評価するのに香りの区分は欠かすことができません。同じように、庭で育てるバラの香りも伝統的な8つの香りに区分されています。これを知ると、バラの花を見かけたら匂いを確かめないではいられません。

代表的なバラの香り8種

香りの種類特徴
ダマスク・クラシックの香りダマスク系とケンティオフォリア系の 典型的なオールドローズの香り。
ティーの香り一般に紅茶の香りに似たグリーンバイオレッ トを基調とした香り。チャイナローズの影響。
ミルラの香りキンバイカの香りで、アニスの香りとも呼ばれ る。イングリッシュローズによく表れる香り。
スパイシーの香りハマナシやクローブの香り成分で、スパイシーで個性的な香り。
ダマスク・モダンの香りダマスク・クラシックの香りがより洗練され、より深みとコクがある。
フルーティーな香りアップル、アプリコット、ピーチなど、フ ルーツに似た甘い香り。
ブルーの香りダマスク・モダンとティーが混ざり合い、青系のローズ独特の香りを形成する。
柑橘の香デルバール社では、レモンやグレープフルーツの香りをフルーティが香りと区別している。

触覚
の中枢は頭頂葉にあります。この感覚で温冷感や空間認識を行っていますが、じつは自分自身の存在を感じることができる感覚は、触覚だけだといわれています。自分で自分の顔を触れば、触っている感覚と触れられている感覚を同時に確認できます。

IT技術によるバーチャルリアリティでは、もっとも難しいのが触覚です。人の肌は動物以上に繊細な変化を感じ取ることができ、精密機械で計測するほどの差異を、熟練した職人は肌感覚で分かります。そして肌で、温度や湿度、風の向きを感じ取ります。

また、たとえば風邪をひいて体調を崩すのも、いわば触覚からです。視覚や聴覚から風邪をひくことはありません。土に触って状態を知り、実りの具合を指先で判断し、収穫の重さを感じて自分自身の生きがいを実感するのは触覚です。

味覚
は、脳が判断して調整しています。水分や塩分など、体に足りない成分があれば、少しでも摂取量を増やそうとします。つまり、同じものを食べても美味しいと感じることが、身体が求めていることであり、健康にもつながることなのです。

生活習慣病も味覚という正しい脳の判断に従っていれば、少しでも遠ざけることはできるはずです。体内に摂取する空気・温熱・栄養素が、身体の基礎代謝を支えています。それを司っている感覚が、嗅覚と触覚と味覚です。五感の中でも、この3つが健康に大きく関わっていることは間違いありません。

視覚や聴覚も、取得する情報量が多く当然のようにストレスや気分に大きく影響があります。家はもちろんのことですが、庭を使うともっと五感との関わりは深くなります。ガーデンセラピーは、こうした五感を通じた健康維持を考えることです。

🌿さまざまな庭

健康のためのガーデンセラピーは、やろうと思えばマンションのベランダでもできないことはないでしょう。しかし、なんといっても土地付の戸建住宅だからこそ楽しめることです。でもけっして広い土地を必要としているわけではありません。

工夫の仕方次第で、さまざまなスペースを活かして、健康維持のためのガーデンをつくることができます。たとえばアプローチガーデンなら、玄関までの足元に、プランターほどの奥行でハーブを育てる庭が作れます。照明を点ければ夜でも、花や緑が浮かび上がり魅力的な玄関アプローチになります。

キッチンにも出窓をつければ、料理を作りながらその場で使えるキッチンガーデンができます。西欧の街で、窓辺に花をあしらうのは虫よけの効果を期待しているからです。ダイニングから出た庭は、奥行がなくてもレイズドベッドで、立派な家庭菜園ができあがります。

花壇のように作り込むのではなく、市販のレイズドベッドを並べると、栽培土への通風もよく衛生環境も保たれて収穫量も期待できます。その上しゃが」みこまな」くても畑仕事ができるのでとても便利です。ミョウガやシソなど、日本産のハーブを植えるのも良いでしょう。もちろん庭の中高木の下や、ちょっとしたスペースを活かして、さまざまな種類のハーブや果樹を植えれば、季節に応じて花や収穫を楽しめます。

さらには、庭の植栽を工夫して選ぶことでも癒しを得ることができます。たとえば樹木のソヨゴは、風がそよぐことで爽やかな音を楽しむ樹として先人が名付けたものです。また、ガマズミは、ウグイスなどの野鳥が実をついばみに集まってきます。わざわざ森林に出かけなくても、自然の息吹を感じられる庭になります。

ガーデンセラピーといえば、まるで欧米のライフスタイルを真似ているような感じがしますが、日本人ほど庭との楽しみを知っていた国もありません。縁側や露地や坪庭、そして盆栽も良い事例です。ガーデンセラピーの暮らしは理想の暮らしではなく、とても身近にあって、すぐにでも始められることなのです。

🌿はじめの一脚

庭にさまざまな草木を植えることも大切ですが、ガーデンセラピーを始める最初の一足を踏み出すためには、もっと庭と家との距離を縮めることです。

普段の暮らしの中で、普通に庭に出てくつろぐ時を過ごせるように、まずは庭に一脚の椅子を置いてみましょう。その椅子に座って草木の息吹を五感で感じてみれば、心身がリフレッシュされます。持ち家住宅だからこそ味わえる最高の贅沢が、ガーデンセラピーなのです。

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