おうちの話

家の周りの風景おうちのはなし171

境界と家までのデザイン家の周りの風景

・庭があって家庭になる
・家に入るまで
・家を広く使う

戸建住宅の最大のメリットは、なによりも自分の土地に建っていることです。その土地をさまざまな庭として活かせば、さらに生活も豊かになります。そんな敷地境界から家までの間の活かし方のポイントは、どこにあるのでしょうか。

🏡庭があって家庭になる

昨今の住宅では、省エネ性能が高く過ごしやすい家が求められる傾向にあります。もちろんそのためには、高性能のサッシを使い断熱材もしっかりと検討しなければなりません。

しかし、まったく同じ家であっても、建っている周辺の環境が変われば、過ごしやすさに違いが出ることもあります。たとえば、窓先に樹木があれば、風の流れも変わります。

その木が、落葉であれば、季節によって陽の当たり方も変わります。夏には日除けになり、冬には大切な太陽エネルギーを家の中に取り込むという調整も、庭の木がやってくれます。

特に夏の西日のエネルギーを遮断するためには、ゴーヤやキュウリ、朝顔などの蔓性の植物を植えて、グリーンカーテンを作る工夫もあります。遮熱ガラスなどの住宅部品の性能より、夏と冬の条件の違いを活用できるので、さらに先進の省エネ住宅になるかもしれません。

こうした地上1mまでの気候を微気候と呼びます。家の周りの微気候を取り入れることで、家の性能も変わるのです。家をリフォームするのと同じように、庭をリフォームすることで、微気候(びきこう)も変わり、家の性能は同じでも、過ごしやすさは変わりうるのです。

考えるほどに、土地と家が一体になっている戸建て住宅は、奥深いものと思えてきます。さらに、家は年数が経てば、古びれてゆくばかりです。その中でも、住宅の性能は最も顕著です。多くの文明の機器は、新品の時の性能がピークであり、古びれるにつれて少しずつ性能は劣化してゆきます。

ところが、庭の樹木は育つことで、だんだん立派になってゆきます。最初は小木で陽を遮らなかったのに、枝葉が伸びて夏にはしっかりと木陰を作ってくれるようになります。それは、まるで性能が年を経て向上してゆくかのような話です。

また、性能だけではなく、美観の面でも貢献します。性能と同じように、デザインも新築の時に一番良いデザインと感じることは、本物のデザインではないのかもしれません。できれば、新築の時よりも価値が増し、経年美化しているかのように見えるデザインが理想です。

世界で最も美しい湖畔の街といわれる、オーストリアのハルシュタットという町には、樹木を家の壁のデザインとして生かしています。育てられている洋ナシの木が、家の3階を超えるまで大きくなるのには、長い年月を待たなければなりません。

この街ではこうして樹木が育った後の、少なからず劣化した家が、理想の家になのるです。家は庭と一体になって初めて完成します。家族が睦まじく暮らす「家庭」という言葉も、家と庭の組み合わせでできています。ハルシュタットの事例のように広くなくても良いので、家と庭との一体をしっかりと考えておきたいものです。

🏡庭の過ごし方

家の周りの空間である庭にはさまざまな用途があります。たとえば庭園として考えても「眺める庭」「育てる庭」「遊ぶ庭」などがあります。「眺める庭」で代表的なのは、日本庭園のように風景を作って家の中から明められる庭をつくります。

でも、眺めるのが主体であれば、じつは植物の葉が表に見えるように北側に庭を配置してつくる方が適しています。また、桂離宮のように、月が庭から登るのを楽しむのには東側につくります。それには、ほんとうに広い敷地を必要としますが、逆に工夫次第で、坪庭・箱庭のように狭くてもできる「眺める庭」のつくり方もあります。

「育てる庭」の代表は、単純に家庭菜園です。菜園ではなく、花を育てるのもあります。さらに、果樹による果実の収種もあれば、たとえ人が食べられなくても、小鳥が寄ってくるような木の実を育てることもできます。食育はもとより、自然や生態系の連鎖を学び、子どもの好奇心を育てる庭になります。

「遊ぶ庭」は、ペットを飼ったり子ども達と戯れたり、芝が広がる庭がイメージされるかもしれません。でも、遊びにもいろいろとあります。趣味の植木鉢を並べるのも、あるいは自転車や車をいじるのも遊びです。それならカーポートにしても、単に車を止めるだけの場所として考えなければ、使い方も広がるはずです。

さらに活動的に遊ぶのではなく、何もしないでくつろぐだけの「過ごす庭」もあります。室外用のテーブルやソファセットなどのファニチャーを設置すると、家の中にあったリビングやダイニングが、庭まで出てきます。平安の源氏物語の時代にも、母屋から出た庇の下に出居(いでい)という空間をつくり、人をもてなしていました。まさに、庭は家の一部です。

🏡迎える庭

建物以上に、庭によって家の価値が高まっていることが確認できるような調査をしました。「高級な家」と聞いて、思い浮かべるイメージを自由に書いてもらい、どのような単語が使われているかを調べたのです。

その結果、家そのものを表す単語より、庭や門、玄関を表す単語が多く使われていました。具体的な記述では、「門構えから玄関までの距離がある」「玄関前のアーチにバラがたくさん咲いている」「門にはやや重厚感のある扉があり、玄関までのアプローチが長い」などです。

確かに日本の歴史の中では、名字帯刀と同じように、門を構えることも許可がなくてはできない時代がありました。しかも、その様式も、立場に合わせて厳格に決められていました。これらの名残から、今でも門やアプローチに格式を感じるのかもしれません。

また、茶室の文化も同様です。たとえ茶室は簡素なつくりであっても、アプローチに作為が仕組まれています。待合で顔見せをしてから路地を歩み、調り口に至るまでの間に、世俗を捨ててから、頭を低く下げて茶室に入ります。それは「迎える庭」としての役割です。

🏡アプローチの作為

でも露地をつくるほど、敷地に余裕がある家は多くありません。ところが逆に、広さよりも狭さがアプローチのポイントになることもあります。たとえば露地には、図面上に表せば通れるのかと疑うほど狭くして、袖をするくらいに迫った、いわゆる袖すりの木を配置することがあります。

通路を狭めることや、ちょっとだけ回り道をするように設計することで、アプローチを長く感じさせることができます。沖縄の民家にある屏風(ひんぷん)では、魔除けのためにも直接家に入れない迂回のアプローチをつくるのは良い例です。

前の道路から、玄関ドアが丸見えにならないように、塀を立てたり、メインツリーを植えたりすることで、家の格が上がるのです。また、門は閉り口と同じでくぐることで別世界に入ってゆく感覚が生まれます。門柱と門扉だけではなく、たとえ簡素なものでもくぐることで、印象は大きく変わります。

伝統的な日本の家のアプローチに、松の枝を伸ばしているのもこの効果を狙っているものです。洋風の庭でも、門柱の代わりに植えた植栽に、アンティークな照明器具をかける事例も見つけました。また、欧米の家では、アプローチとして玄関先に椅子を置いている風景をよく見かけます。

椅子があることで、今ここに住んでいる人がいること、そして来る人を拒んでいないことを表しているように感じます。玄関周りの庇を深くして、暗くすることも、洋の東西にかかわらず共通したアプローチのテクニックです。

さらに暗い時に迎えることを考えれば、門や庭木だけではなく、ライティングによる演出も忘れてはいけません。ここでも、少しアプローチが長く取れると、いろいろな趣向を凝らすこともできます。家のプランニングを考える時には、道路と家までの間にある玄関アプローチを大切にしておくことは、とても大事なポイントに間違いありません。

🏡諦めない庭

「眺める庭」「育てる庭」「遊ぶ庭」「過ごす庭」「迎える庭」の他にも、なくてはならない庭があります。それは「使う庭」です。家の間取りにも、水周りが必要であるように、庭にもユーティリティスペースが必要です。

洗濯物を干したり、物置を置いたり、室外機もおかなければなりません。庭の中には、どこかに使う庭のことも考えておかなければなりません。そして最後に、どうしても残ってしまうような庭もできるものです。あるいは都市型の家であれば、もともと広い庭も期待できません。

でも、諦めることはありません。上手に窓と組み合わせれば、たとえ奥行きの浅い庭でも、家の中に風景として取り込むことができる庭をつくることができます。これらの風景は、すべて家の生活空間を大きく見せることに役立ってくれます。

自分の土地に建てる注文住宅は、マドリの使いやすさだけで判断するのではなく、土地と一体になった風景で見ておくことです。

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